属性分析(あるいは、特性列挙法、とも)を、アイデア発想法の切り口で、手短に説明してみます
ごちゃごちゃに混乱して、何か考えてよいのか分からないけれど、何か改善ができるはずだ、という時には、アイデアを思いつく常套手段として、「属性分析」が便利です。分析的に発想していくので、いきなり新規なことを考えるのが苦手、という人にも向きます。
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ごちゃごちゃの対象(これを私は「系(けい)」と呼称します。理論物理の世界の表現です。ちなみに英語ではSystemの意味です。いずれにしても、考えている対象全体を呼ぶ名称です。)があったとします。
たとえば、非効率なオフィスワーカーの机の上、もありますし、オフィスワーカーの一日で行動に登場するすべての空間を対象にすることもできますし、研究室で素材生成に影響を与える可能性のある空間内全体を対称にすることもできます。いずれにしても、系、があったとします。
その系の中に存在する「属性」をまず列挙します。で、「属性」というのは、なに? 一言で言えば、これは、対象に含まれる、物理的なパラメーター、です。例えば、室温、とか、部屋の明るさ、という、物理単位(℃、ルクス)であらわされるもの。あるいは、「ペンの本数」のようなものも、属性です。床のすべりぐあい(摩擦係数ミュー)もあります。
人間を含んで系を扱っているならば、すこし、物理的パラメーターから離れますが、「他の人の話し声」とか「電話のかかってくる頻度」とか「会議中の上司の発言量」とか「一度にする指示内容の多さ」など、も発想法のときには含めてかまいません。(この辺、どこまで、パラメータを拾えるかが勝負です。変な量でもいいので、とにかく拾いあげてください。)
こうして、その系を記述する属性を列挙します。
(なお、特性列挙法も、本質はほぼ同じです。特性列挙法のほうは、すこし面白くて、名詞的な属性、形容詞的な属性、動詞的な属性、を上げよ、と項目をたてて積極的に広くから拾わせています。(ちなみにそれぞれ、材料/性質/機能、にあたる属性を拾わせていることなのです。)
さて、次は、2つの大きなカゴと1つの小さいかごを用意します。具体的にかカードに書かれた属性をカゴにぽこぽこ、投げ入れていきます。
赤いカゴは「増大関係」。これは、その量(=属性の数値)が増えれば増えるほど、困りごとが増大する、というものを入れていきます。たとえば、デスク上の不要な空き缶(の本数)、という属性。これは、増えるほど、オフィスワーカーの生産性の阻害要因になります。なので、机の上の空き缶の本数は、赤いカゴ。
青いカゴはその逆です。「減少関係」。それが増えるほど困り事が減る、というものです。たとえば「じゃまされずに集中して作業できる時間(の長さ)」です。これは増えるほど、オフィスワーカーの生産性は上がります。青いかごに入れます。ただ、どこまでもそうであるかは、若干わからないな、とおもえても、発想の刺激としてつかうときには、ざっくり進めてしまって結構です。
たまに、どちらになるのかは、良く分からない、自明ではない、数値の帯域によって増減は変わる、という、不確定なものがあります。それは、黄色のかごに入れておきます。たとえば、隣席の人が振ってくる雑談(の回数)、とかはどうでしょう。相手次第だったりしますし、頻度が少ないうちは、気分転換によさそうなので、減少関係、といえそうですが、頻度がある一定以上になると純粋に邪魔になりますので、増大関係です。こいういう、単純な比例関係、あるいは、反比例関係、とはならないものは、黄色に入れておきます。
つぎがいよいよ発想です。やり方は単純。
赤いカゴの中のカード(属性)の量は、出来るだけ減らせないか、と工夫を考えてみます。そうすると、いくつか具体的なアイデアが浮かんできます。増大関係の因子なので、減れば減るほど、うまくいくわけです。
青いカゴは、その逆です。それが増えるほどうまくいくわけなので、できるだけその属性の量を増やせないか、と考えて、具体的なアイデアを思い浮かべていきます。
どちらかといえば、赤いカゴのアプローチは普段も無意識にやっています。やっていないのは、青いカゴのほうです。助けとなるものをより使う、というのは、(特に日本人の思考傾向だと)発露しにくいようです。ですので、赤の時には、あったりまえ、というのもがでますが、気楽人どんどん発想して、青に入ったら、ちょっと面白いアイデアが出そうだなと言う期待感を持って進めていきます。
そして、最後が、黄色。黄色のカゴの中のカードは、一般には、どちらとも言い切れないものなんですが、条件をくぎったり、一連のプロセスの中の期間を区切ることで、有益な示唆が浮かんできます。なので、そういう、ちぎり、をいれてみて、新しい発想をうめないかと、考えてみます。
たとえば、先の例では、隣席の人の雑談の頻度、でしたが、頻度が8時間に5回ぐらいまでなら、円滑でストレスレスな空気を醸成でき、生産性が上がりそうです。5には根拠がありませんが、仮に、5がひとつの区切り位だと見立ててを立てて考えていきます。5回/DAY以下の領域では、この属性は減少関係になる。なので、少しアイデアとして飛ばしますが、「90分に一度、休憩アワーがやってくるオフィス運営。夏場の公営プールのように、一度、強制的に、その場からひきあげさせる。」というアイデアにもなりそうです。90分に一度、というのは、ざっくりめのこでいっていますので実施の際にはもうすこしチューニングがいるという補足付きですが、とりあえず、ざっと線を引いてみます。
また、5回を越えていくと今度は増大関係になる、とするならば、雑談が気にならない人同士で固まらせて座ってもらうという処置もありでしょう。
黄色の属性は、どこかで、極大値(あるいは、極小地)があります。そのあたりに値を動かしていくことで、ひとつのアイデアになります。この例でもなんとなくそれがわかるかと思います。
ただ、一般には、それほど、単純な増大関係→減少関係(またはその逆)という形のものばかりではなく、もっと、値と困り事の量の関数がふんわりしていてよく分からないものもあります。こういうものは、発想の材料から、はじいておきます。
このようにして、発想をするのが属性分析です。
まとめますと、この発想の方法の、基本戦略は2つ。
困り事を増やす量はなるべく使わないようにする。困り事を減らしてくれる量はなるべく増やす。(複雑な因子は条件で分けてどちらかの戦略に帰着させる。)
この発想技法は、系が複雑で単純な着眼点ではすぐに解決が思いつけないような場合に、分析的に見ていき、徐々に具体的な発想寒天を得ることができます。こまったらぜひ使ってみてください。
なお。
この技法の最もハードルの高いところは「属性を拾い上げる」ところです。温度ー、とか、明るさー、のような分かりやすいものはたちどころに誰でも上げるのですが、そのほか特に人間を含む系では、感性的な要素をどれだけたくさんひろってこれるかが勝負になります。先にコメントしましたが、変な量を拾い上げていたってかまわないんです。とにかく、属性を列挙していく。そこに専念して、対象の系をつぶさに観察したり、イマジネーションの力でそこに浮かび上がる属性を、たくさん、見出してください。