宮古で学んだこと。
20代前半に、宮古(岩手県)で住み込みの夏季アルバイトをしていたことがあります。海辺のキャンプ場の管理人とホテル付属レストランのウエイターです。多くの人との出会いと貴重な経験をすることが出来ました。
その経験の中でも未だに思い出すことがあります。その日はキャンプ場の仕事をおえてホテルの隅にあるバイト専用部屋にもどりました。バイトは夜遅くにそのホテルの大浴場に入らせてもらうのでその日もそうしました。その日は他に誰もいなくて一人では入っていました。しばらくするとそこの支配人が入ってきました。彼は入ってきてまず、あちこちに散らばる椅子と桶をきれいにピラミッド型に積みました。そして体をあらい湯船に入ってきました。そのときに支配人だと気が付き、どうして支配人が今片付けるのですか、と素直にたずねました。彼は「次に入ってきた人が気持ちいいでしょう」とやさしく答え「下の人にそれをやれといったことはないけれど、結構従業員も真似して片付けるんですよ」と続けました。翌日食堂でその時の話をすると他の従業員の方が「支配人がそれをやっているのをみてやらずにはいれないよ。たとえ命令されなくても」とのこと。そのときに人の上にたつというのはそういうものか、と深く感心したものです。
早速、次の夜、私も椅子と桶をピラミッド型につんでから湯船に入りました。前にお客さんらしき人が入っていたのですが、面白いことにその人は上がり際につかった桶をピラミッドに積みました。偉い人がやるから従業員もやらざるを得ない、というばかりでもないということにその時気が付きました。その日からキャンプ場ではトイレ掃除を徹底的にやるようにしてみました。海が近いので翌日にはひどく汚れていました。なので朝と夕方にやってみました。かなりきれいに保たれています。さらに巡回の合間に、ペーパー切れがないか確認するようにして補充して回るようにしました。ごみも集めます。気のせいかキャンプ場の管理体制にすこしお客さんの好感が増したような気がしました。そのことの実感は次第に返却されるなべのきれいさに反映され始めました。以前は使いっぱなしで返却されたなべが、こすり洗いされて帰ってくるようになり始めました。これは結構大変な作業だったので助かりました。
支配人はお風呂の椅子と桶を自ら整理する、ということを通じて従業員に実は非常に多くのことを教えていたのだと気が付きました。多分もう少し長くバイトをしていたら、そのほかに支配人がしている面白いことをまねしてみようとしたと思います。