TRIZで発想するワークショップを行いました
12月20日、TRUNK(仙台市若林区、クリエーターのシェアオフィス)にてアイデアワークショップvol.10を、行いました。
これは毎月行っているワークショップで、毎回、企業の方やクリエータの方がいらしてアイデアを出し合うワークです。
今回のテーマは、「ブレークスルー」です。発想手法はTRIZ(トゥリーズ)を用いました。
TRIZについては、一言でいうならば、技術的な分野のアイデア創出を強力にサポートする思考道具です。工学分野のアイデア発想法、という表現をすることも決して間違いではないのですが、TRIZは、アイデア発想法という領域を超えて、課題の分析ツール、思考のフレームワークなどの面も持っているので、「発想法ではない」と表現する方もいます。正確に言えば「発想法だけではない」というべき、範囲の広さをTRIZを持っています。
今回の内容は、いつものワークショップとは、若干違うテイストでした。いつもは75%の時間はワークですが。今回は、TRIZという知識の伝達も大きな要素でしたので、ワークの時間は50%ぐらいでした。
ワークショップ&ミニ講義のコンテンツは以下です。
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1)TRIZって?
エンジニアの発想ツールのTRIZ
2)新しい携帯電話のアイデア
智慧カードで、発想ワーク
3)あの製品、次の世代ではどうなる?
技術の進化トレンド
4)新しい文房具のアイデア
セルフXで、発想ワーク
理想解という発想法、具体要素~セルフX
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私は、アイデア創出の支援の中で、TRIZについて解説する機会も結構ありますので、基本と活用を踏まえて、かみ砕いてお伝えしていますが、これまでは何らかの開発工学的知識をお持ちの方が想定受講者でした。今回は違います。今回は、クリエーターの方で、技術的に深いことをされている方もたくさんいらっしゃる集団でしたが、QFDや品質工学やTRIZという領域のことは聞いたことがない、という方を想定して、ワークショップを設計しました。(もちろん、ある程度は、通常のTRIZワークショップでも、そういう前提ゼロの方の参加を想定はしていますが)
結果としては、各種の専門家の方が多く、高い能力をお持ちの方ばかりでしたので、TRIZの発想効果を体験してもらえたようでした。
1,2,3のコンテンツは過去に、スライドを掲載したりしたこともありますが、4の内容は今回が初の試みでした。「理想解を手軽に発想するための具体的な発想の示唆」として、「セルフX」を用いました。「セルフX」は、「対象物や製品が自動で、自分で、○○する」という構造を有する特許を膨大な特許群から抽出し、パターン化したものです。『TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術 革新』(Darrell L. Mann)の中では、41+5つ(合計46個)のパターンが紹介されています。
発想の練習課題として、「はさみ」や「ノート」などの文具を取り上げて、「はさみ」×「セルフX(1~46)」に、有意味解があるしたらなんだろうか、ということを3人グループでブレストしながら、進めていきました。一種の発想トリガー法に近い使い方です。あるいは、シネクティクス流の言い方をするならば、「アイテマイズレスポンス(項目立てて発想する)」という発想の方法です。バイオミミックの発想法もある意味、近い所があります。
━━ 発想のテーマ ━━━━━━━
はさみ × セルフXで
理想解に近い「はさみ」を発想してみる
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「配置する」
入れるとはさみをピカピカにする鞘つき
「調整する」
ずれ補正はさみ
・目をつぶって30センチ、まっすぐ切る。
・ずれ(例えば2ミリ)を測る。
・ダイヤルを回す(-2ミリ)とその人の切りクセをキャンセルするようになる
実現方法⇒持ち手の部分部分の角度を調整するのが良さそう
「試験する」
切れるものをチェックする機能があるはさみ
・堅すぎて手が痛いなどの対象物を
何らかの方法で検知する
「規動する(レギュレート)」
リズムはさみ
・一定のリズムを流してくれる
・あるいは、刃を下すと曲が弾ける機能
・作業が楽しくなるようにする仕掛けとして
「ロックする」
チャイルドロックはさみ
・刃はただ開こうとしても開かない
・スライド部分を引いて回す、等のロック機構を解除して使う
・30秒使わないと、カチッとロックがかかる
「付加する」
縁どりはさみ
・切ると同時にマーカーで色を付ける。
・例えば動物の形に切り抜くと、縁どりされて楽しい
・パーティーやイベント用に
「付加する」2
紙で怪我しないはさみ
・紙の鋭利な断面でたまに手を切る
・カット面に微細なブレを与え
断面の鋭利さを下げる
「密閉する(シール)」
袋とじはさみ
・重ねて切ると、糊で袋とじになる
「除去する」
ごみ受け機能付きはさみ
「粘着する」
ポストイットはさみ
・カットすると縁に糊をつける
・長い紙テープのメモや模造に議論を書く
・必要なところを切り抜くと同時に糊が付き好きなところに張れる
「開始/停止する」
降り切らないはさみ
・普通、刃を下しきると、切断面が荒れる(横に裂ける)
・このはさみは、刃がぎりぎりの所でそれ以上閉じない
・しまう時には完全に閉まるように
「偏心する」
閉じる角度に対して切れる長さが一定のはさみ
・普通のはさみは閉じる角度あたりの切れる長さが
角度によって変化する(閉じ着る直前が最も長い)
・ギヤやスライド式のかなめの構造にして、
閉じる角度と切れる長さが常に一定のはさみにする。
・医療用のはさみなど、新市場が生まれるかも
「調心する」
新円用はさみ
・新円を切り抜ける
・ダイヤルを調節することで、
半径1センチ~12センチに設定できる。
『派生したアイデア』
減圧はさみ
・刃先が紙を吸う
・手で紙を保持しなくていい
・片方の手しか使えないときに便利
ポインターはさみ
・刃先が下りるポイントが常に表示される
・先端同士の位置を把握しレーザで紙面にポイントする
すべり切り用はさみ
・切れる角度にFixできる
・持ち方もハンドルを握りなおして
狙いやすい持ち方が可能
折り目はさみ
・切断しない
・ボール紙などに折り目(くぼみ)をつけていく
ファスナーはさみ
・重ねて着ると二枚の縁が閉じられる
・針のないホッチキスのようなものが
刃の隣についてる
この時点で30分ぐらい、すでに経過していました。
46のうち半分ぐらいしか使っていないので
多分もっと出せそうでしたが、ノートでもやってみようということで
2つほど、やってみました。
ノート × セルフXで
理想解に近い「はさみ」を発想してみる
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「修復する」
指で消せるノート
・指の繊細な動きで、消したいところを狙える
・紙に機能性を持たせるか
指先につける練けしのようなものを付属
「学習する」
レインボーノート
・普通、子力任せに消すと、紙はちぎれる
・圧力を感知して、色が変化する
・ちぎれそうだと赤くなるので徐々に
消しゴムをかける力を覚える
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以上、ざっくりとしたコンセプトだけですが、理想解の文具として、いくつかの姿がわいわいと話し合う中で、発案されていきました。
なお、「じゃあ、どうやって実現するの」という疑問が残ります。コンセプトだけなら、沢山出せても、どうすればそれを具体的な機構や構造に落とし込めるのか?それも大事です。
TRIZの良い所は、What系とHow系の両方に対して具体的な発想促進コンテンツをくれます。
What、つまり理想状態がある程度出せたならば、今度はHow系の手法である「発明原理」あるいは、それの簡易発想ツールである「智慧カード」で、このコンセプトを「実現する方法」を発想してきます。より本格的に行うならば、二律背反の命題にする、のですが、智慧カード位であれば、さっとカードをめくって、「あ、この、バランスを崩させよ、ってどうかな。あとこの、予測し仕掛けておけ、もありそうだな」という具合に発想することもできます。
他にHow系のTRIZ手法としてはUsitオペレータがあります。拙著『アイデア・スイッチ』で紹介した発想トリガーです。他には、TRIZには「76の標準解」というものもあります。たいていは、聞き手が混乱するので、そこまではしないのですが、標準解についても、発想の道具として、いずれかみ砕いた形にして紹介したいと思います。
参考)
セルフXの46のリスト
http://ishiirikie.jpn.org/article/42067310.html
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いつもの、トランクのアイデアワークショップとは一風違った感じのワークショップでしたが、こういう具体的な発想のガイドを用いた発想ワークというものまた、人々のニーズに合っているものがあるようで、みなさんから良いフィードバックをいただけました。
TRIZは、実は、以前、研究会で毎月、1技法を紹介&発想を実際に皆で行う、という活動をしていた時期がありました。
この手法体系だけでも、5回以上の実施ができる発想コンテンツです。ご興味のある方は、ぜひTRIZの各種のサイトや本をご覧になってみてください。アイデア発想法のことを広く分析する中で、TRIZは、特別な存在であると、私は思いました。
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次回は1月20日を予定しています。
次回は、ストーリー要素をつかって
物語を発想するワークショップです
ぜひ、ご興味があればおいでください。
詳細 http://e4cw.sblo.jp/article/42183918.html
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