技術で直して心で仕上げる
仙台の南部に「ニーノオートボディ」さんという
自動車の板金屋さんがあります。
私はこの時が初めてのご挨拶でしたが
社長の新野友二さんとは、
波多野先生の一番塾の集まりのご縁があり
折り畳みギターの島野さんのご紹介もあって
今日、お会いする運びになりました。
実は妻が愛車をぶつけてきたことが
発端です。
それも、かなり派手に。
普通、ぶつかったらとまってバックするべきですが
彼女は障害があったら、アクセルを踏むことで脱出を試みる、
そういうタイプなので、
傷は前ドア、後ろドア、後輪のタイヤハウスまでにおよび、
板金も二か所ほど、千切れて穴があいていました。
(もっとも、こういう人だがら、
挑戦する生き方をする私と一緒にいても
平気なんだろうと思いますが:笑)
その修理について、今あまりコストをかけらない
私はこう考えていました。
「車の傷も、家族の思い出。
さびや電気系統への加速的な影響がでるものだけケアして
傷はそのままのこってもいいかな」と。
そういう背景があって、
私の相談は、面倒な修理の部類に入ると思うのですが
新野さんは快く相談にのってくれて、
その方針に沿った直し方を提案してくれました。
ディーラーやカー用品店で
直し方を相談した時には
「フルに直す。ドアは交換」といった
完璧な直し方のみが提示されていたのと比べて
新野さんは「相談できるお医者さんみたいだ」と思いました。
今日はたまたま都合があいていて
お伺いしたその場で、即、処置をしてくださいました。
その修理の拝見しながら、
新野さんの仕事の質が、
技術と心であると感じました。
技術は素晴らしいものがあります。
私の要望「フル交換はせず、極力現状温存」という
モノに対して、できる限りのベストを尽くして下さいました。
その修理中、さまざまな話を聞かせていただいたき感じたのは
「技術がモノを直して、心で仕上げする」ということでした。
人間の目や手の感覚は、驚くほど高い分解能を持っています。
わずかな塗装のむらや表面形状を、人は検出できます。
実は産業用ロボットにはたどりつかない水準の検出能力もあります。
そういう細かい違和感をみつける力をもつ人間の目が
完全に直ったと感じるように
自動車の板金を直すのは非常に高い技術がいるそうです。
複雑な工程もあります。
それらの要所を確実におさえていけるのは高い技術力です。
その上で、仕上げには、別のセンスがありそうでした。
直す人の心が仕上げにのってくる、のかも、と。
新野さんの仕事を後ろで拝見していてそんな事を思いました。
追記(5月9日):
昨日、晴れたので、庭で車の洗車をしてみて、
直しの具合にほれぼれしていました。
新野さんの処理は、私の要望にとって完璧でした。
車の傷を、家族の思いで、と考えた私は
へこみもそのまま残したかったのですが、
その要望をかなえつつも、きれいにしてくれています。
車の地金の出た部分には、自然な感じに
塗料をあててもらっています。
破れてしまった板金部分も
極力穴がふさがるようにおこしてもらい、
専用のボンドでとめてもらいそこ自体も
自然な感じに塗料を載せてもらったので
へこんではいるけれど、つるつるです。
現場で、その工程をみていて
魔法みたいに車が直っていくと思いましたが、
明るい所で見ても、その仕上がりに
感心しました。
「車の傷を家族の思い出」と私は考えていましたが、
そういう直し方がはたして正しいのか
当初、自信はありませんでしたが、
新野さんの直してくれた車を見て
自分のニーズは、ある種の人間がもつニーズだと、
確信がもてました。
まず、ぶつけたままにしておくとさびがでたり
ドア内部の水分が電気系統をはやくだめにしたりして
しまうので気がかりですし、
ささくれ立った部分で、小さい子どもが
けがをしてしまわないか、が心配なものです。
なので、直したい、と感じます。
でも、物体の欠損に、家族の記憶をもたせている人は
その記憶を消したくない、そのままに残したい、と
感じている部分があります。
子供の巣立った後、柱の傷をいとおしくおもう
翁の気持ちがそれに似ています。
その柱を取り払って、お家を立て直すことに
さみしさを感じる方は多いはずです。
別の野では「新品化せずに、直す方法を選ぶ」ことが
確立された地位を占めています。
急須の修理にがあります。
古い急須がわれたときに
「金継ぎ」という修理方法があります。
かけた部分を金属でつなぎます。
買った方が新品が手に入るかもしれませんが、
でも、現在でも、金継ぎに出す人がいます。
今回は、自分の車で、その「物体に体験を刻む」心理を
確かめてみることができました。
注:もちろん、これは、新野さんの技術と心があればこそ
出来たことなので、
一般の板金屋さんではこうした相談が、
理解してもらえないか、やってもうまくしあげてもらえない
かもしれません。
物の豊かさを享受しきった熟成社会において
モノを媒介して人が享受している「キモチ」とか「感性価値」を
目を凝らしてよく見ることで、
弱いシグナルを発見できるではないだろうか、と
車を洗いながら思っていました。
プロの技と心意気に、深く学ばせてもらう体験でした。
せっかくなので
新野さんの工房で撮影させてもらった写真を
アップさせてもらいます。
4号線を名取川から南下3つ目の信号を左折して、
すぐに右折すると西松屋があり、その前を進んで
T字路を左に曲がる。100~数百メートルで「コバック」が。
ニーノ オートボディは、コバックのゲートの中にあります。

中から通りをとった写真。

入ると駐車場。ここにとめて右手の工場へ。

ガレージ。

世界中の車カラーの99%まで、再現可能。

配合データを計算するコンピュータ。

同じ色でも車カラーは様々。例えば黒の場合。

選んだ色チップを本物にあててみる。

一滴の滴下がコントロールできる道具

新野さん。
私石井の『この道具は?』『この光はなんですか?』という
作業妨害に近い質問にも丁寧にこたえてくれている一コマ。

ここは、空間的に区切り、チリのない空気で塗装する空間。

板金用ボンドを固まらせるライト。

ドライヤー・ガンのような道具。
作業シーンはあまりうまく映せなかったのですが
丁寧で確実な動きに、素人目にもプロだなぁ、とうつりました。
~新野さんのお店の情報~
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ニーノ オートボディー
新野 友二(Niino Tomoji)
仙台市太白区中田町二軒橋5-6
022-306-4580
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※近い将来、手狭になった工場を広げるために
転居する可能性があるそうです。
※ニーノ オートボディーさんは
コバックの敷地内にあります。
大きな地図で見る
まだ、WEBサイトをお持ちではないようですが、
もちろん、お仕事を相談すれば、相談にのって
くれますし、
実際、私がいる間も、よくお電話がかかっていました。
WEBになくても、評判で仕事がくる程の仕事を
されているのだと思います。
WEBサイトがないと、なかなか
相談しにくい人も多いかと思いますが、
いいものは、ネットにのってない、
というのも有る部分、事実です。
新野さんのところは、そういう存在だなぁと思います。
「石井という人のブログを見て知りましたが、
修理でご相談したい事がありまして」
とぐらいに言えば、直接の知り合いでなくても
スムーズにご相談できるとおもいます。