職人の技術と意気に、感じ入る
折り畳みギターの島野さん。以前アイティメディアの記事でも取材させてもらった方で、学研の「大人の科学(Vol.26)」に取材されたこともある方です。仙台の志ある創業者の勉強会で知り合い、それいらい友人としてつき合わさせてもらっています。
その島野さん、いい職人なんですよね。折り畳みギターでその世界では広く作品が知られているにもかかわらず、「売らない」。納得できるものを、本当に使うシーンのある方に丁寧に届ける。そういう方針なんです。なので、「楽器を初めて買うのですが、折りたためるのが面白いので1つ欲しい」という方には、きちんと向く楽器を推奨するそうで、「商売は下手かもしれないけれど、島野ファンを作ったんだなぁ」と私はその様子に思いました。(もちろん、頑固一徹でお前には売らん!みたいな人だったらそうならないでしょうが、島野さんの対応はそうじゃありませんので)
音楽を愛する職人さん。彼を一面で表現するとそうなんでしょうかね。板金技術、金属の微細な加工の技術、木工を自分で削る技術、ギターフレッドをエクセルを駆使して、自分で作り出す技術(これは、非常に難しいことが素人にもわかります。ソフトではじくことはできても、寸分たがわずそれをフレッド上においていくなんて)。そして特許も自分一人でとってしまう。乗っているバイクの大幅な改造もして。見た目にはレオナルドくまさんみたいな人ですが、松島のオルゴール館で200年前のオルゴールの壮大なものを修理する彼。音楽の感性と金属と機構への理解。それらがあって初めて可能になる仕事で。まさに天職だなぁと思います。そのオルゴールを見に来たお客さんが、200年前の音を聞いて、涙を流すこともあるそうです。
その島野さんがアイデアワークショップに遊びに来てくれました。新作の折り畳みギターを持って。(これも、売らないんだろうなー、とおもって、いとおしそうにギターを扱う島野さんをみてなんだかあたたかい気持ちになりました。)
島野さんがでかいので、ギターがますます小さく見えますが、普通の男性が持ってもかなり持ちやすいコンパクトさ。
しまうとこんな感じです。
持ち手に複雑な機構があるぞ。とおもっていたのですが、これが演奏の時に生きていました。
このギターケースは、ビジネス鞄とそう変わらない大きさでアンプ、スピーカーが付いています。そのかばんを開けているときと閉めているときで音の響きが違います。いわばスピーカーボックスの構造が変わるわけですから。前の作品の時からその辺を「開けて演奏」「閉めて演奏」として使い分けていました。が、このレバーをつけたことで変わりました。演奏時、足元において足でこの持ち手から引き出したハンドルを踏みます。すると小さいてこがあって鞄が開きます。足でこの「ペダル」を周期的に上げ下げする。するとスピーカーから出るギターの音がうぉんうぉん、とうねります。
「あー、これはすごい!」
技術的な工夫が好きな私は、この工夫にすっかり感心しました。彼のすごい所は、そのうえで、レバーを持ち手の中にしまうとそれが鞄のロックとして働くように中に構造を設けているところです。
写真ではわかりにくいですが、ギターの伸縮機構もかなり改良をされていて、全長のほぼ半分になる、という以前のバージョンに比べて今回は「完全に半分に収まる」ようにしたそうです。そのために、ボディー部分を2つから3つに分割したそうです。(脱線ですが、TRIZ理論から言っても、そうなることが妥当であると確信できます)
その島野さん、名刺ケースとiPhoneケースを自作されていました。
折り畳みギターの作家ですよー、ということを人前であまり大ぴらにいうのも男らしくないし、(持って歩くのはくでないとしても)興味のない人にギターをいきなり見せるのもらしくない、ということで名刺ケースをこうしてみたそうです。
フレッドの部分がぱかっと開きます。なかから名刺が取り出せます。このフレッドも完璧に楽器のものと同じ刻みで作っているそうで、ネックを握っているように握ってみると、あーほんとうだ、としっくりきます。(私もいくらかギターを昔弾きました、ほぼ素人ですが)、
で、これなに?と興味を思っている相手に、折り畳みギターの作家で・・・、ということで、話が広がり、実物を見たいという人にはものをみせるそうです。いいですね。工夫が憎い。
それからiPhoneケース。
継ぎ目のない、一体の木片を削り出してできています。(ピンボケで恐縮ですが)
肉厚なのでiPhoneが結構ぽってりしたかんじになっていますが、iPhoneのハイテクっぽさと木のジャケット(かなり衝撃に対する保護性もありそうです)のミスマッチ感もいいですね。
島野さんの創作意欲と、鉄と木の加工技術。これで、IT部分ができる人だったら、ネット上でニッチだけど広く知られる人だったろうなぁと思います。オフラインの世界にはまだまだこういう方々沢山いるのだ。モニター越しの世界は、世界のごく一部をみているだけなんだ。と思うとなんだか、無性にうれしくなりました。
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