物語を作るワークショップ(レポート続編)
先日、TRUNKで行ったワークショップは、私が普段行っているアイデアワークショップとは、趣がやや異なり、「ストーリーを発想するワークショップ」というものでした。いつもよりも少し詳しくレポートしたいと思い、続編です。
前半では、「ストーリー要素カード」というものを使いました。後半(といっても実際は終わりの10分弱)では、「キャラクターフィールド法」と名付けた方法で、アイデアを出す方法を取りました。皆さんに実践していただく時間はなかったので、ワークショップの進行中に、私と赤井澤さんで、実践して、お話を作ってみたものです。
この即興で作る、ということを強調したかったので、あらかじめ考えておいた題材ではなく、前半で、最初に発想した物語「Story1 目覚めの時」を題材に、発想してみました。
この発想方法は、「一点から、お話の、世界を拡げる」という思考様式を、視覚化したようなもので、ボードゲームテイストな教材を作り実践しました。
ここに、4色のカードを、折り曲げて、スタンドのようにして、並べていくワークです。
キャラクターフィールド法
1.魅力的な主人公を、真っ白な平面の上に降り立たせる(赤いカードの作業)
これは、「まずキャラクターありきで、徐々に世界と物語を拡げていく思考をする」作家さんのやり方を模しています。今回の場合は、「Story1 目覚めの時」で主人公になった「男」の五年後です。うだつの上がらぬ助手が一躍有名になり名声をつなぐためデータねつ造になり、かつての後輩がかつての自分の教えを自分に伝え目覚めて、世間にねつ造を報告。世間中から追われて、名もなき研究室に流れ着いて、しかし、研究者としての彼の瞳は以前のどの自分よりも輝いていた」という彼が、それから、5年たった時点の姿を、主人公にしました。
Work1) 赤いカードに、主人公像を書きます。
文字だけでもいいのですが、赤井澤さんに即興で、その主人公を絵にしてもらいました。
「お、なんか、穏やかな世界の空気と、ほのかに周囲をひきつけそうな人柄。物語が広がりそう。」と言いつつ、それをA3のシートの中央に置きました。
2.主人公の織り成す世界が魅力的になるように、他の人や、周囲にあるアイテム、生物を想起する(黄色いカードの作業)
これは、一点から徐々に世界を広げていくような「アブダクティブな頭の働き」を少しずつ可視化していく作業です。もやもやっと、主人公をみて醸成される世界を、アイテムや人以外の生物を周辺に配して可視化していきます。今回は、動物にしました。この男のかっているペットが猫だと、しっくりくるんじゃないか、ということで。
「これは、聡明そうな、美人猫ですね。この猫がいつも傍らにいて、あんまり人気はない研究室の中の午後の日差しの中で、猫と二人、もくもくと研究に打ち込んでいる、そんか空気がありますね。その猫が、山の中から戻ってきたときに、珍しい粘菌をつけて帰ってきて、それを契機にお話が動ごきだす、なんてのも、いいかもしれませんね。」「いや、猫はただ、猫であり、世界を構成する空気で。そういう感じもありかな」などなど、具体的に描くと、そこから広がります。さらに、周辺へ。
3.主人公たちとを取り巻く、周辺の環境、部屋や建物や周辺の世界を想起する(緑色のカードの作業)
初めは、「主人公」という「1つの点」だけが白紙の上にありました。そして、「猫」とその二人が織りなしているだろう日々の空気が徐々に頭の中に醸成されてきました。それらの要素を縫いとめて、そのお話を魅力的にしてくれるステージを、今度は発想します。今回の場合、前段になるビフォア・ストーリー(「目覚めの時」)があるので、その時に、ある程度、周辺環境も色付けされていたのですが、それもふくめて、周辺世界を考えて書き出していきます。
イメージとしては、日本の中でも南国のエリアにある大学で、さほど知名度はない。世間を追われた彼がなんとか職を得たということから考えて、5年前の当時にちょうど新設された大学で、猫の手も借りたい勢いで先生やスタッフを集めたその中に彼も入った。新設大学なので、キャンパスは新しいはずだけれど彼のいるところは、寂れたあまり人のこないところがいいな。じゃあ、その大学の敷地にもともと立っていた古い建物で、キャンパス内でも人の行かないエリアがあり、そこに彼は研究室をもらって、そこでこの世界が展開していることにしよう、と。
絵にしてもらいました。これも本来ならば文字だけで、書いてもいいのですが、絵になっていると、人間の認知や想起するからは楽しく引き出すことができます。(むろん、文字の方が、想像の自由度が広くてよい、という人もいます。その場合は文字で。)
「あ、これ、多分、敷地を買い取るときに、広く買い取っていて、キャンパス奥の方には、廃校だったか、建築時のプレハブ小屋だったかが、予算の関係でそのまま残ってしまって、学生たちはピカピカの校舎の方に主にいて、こちらにはあんまり足を踏み入れないエリアな感じになりましたね。」と言いつつ、世界を、可視化していきました。
4.主人公の現在の気持ち、心理状態を書き出す。(青いカードの作業)
主人公を起点に、Time=0、つまり現在の世界を書き広げていきました。この時点での主人公の心理状態を、書き出しておきます。前後の流れにおいて、目に目ないけれど大事な要素です。
ここは、絵にするのは難しい(そもそも、気持ち、なので)ので、文字によりそれを書きました。
彼の心理状態を表現する「行動の記述」もふくめて、できるかぎり、ふんわりと、書きます。あまりエッジを立てすぎると、人工的すぎる感じがでるので、こういうアブダクティブな世界の広げ方は、壊れそうなものをそっとつかみとっていくような、感じでありたいと思います。(なかなか、人には、伝えにくい感覚ですが)
などと、いいながら、一人で、もしくは、二人いれば二人で、話を形にして、展開していきます。
作業中はこんな感じです。(なお、この瞬間、参加者の皆さんは、前半のワークを進行しています)
さて、こここまでは、現在(T=0)でした。この後は、T=少し未来、T=少し過去、へと、時間軸を振らせて、物語を拡げていきます。
5.未来の時刻にも、想起してカードを乗せる(4色のカードを必要に応じて、の作業)
この世界は、穏やかな世界でずっとこのままいたい空気がありますが、お話が転がり始めるために、少し未来に起こることをT=0の要素群から、想起します。
いくつかブレストを石井と赤井澤さんでしました。「アイデアは分岐する。」こういうお話のブレストでは特にその傾向があります。いくつもの「別のお話」があってそれぞれ面白い。そんな中でも、お話の骨子として取り出したいものがいくつかありました。それを不整合ですが列記します。
・教授の元に猫が粘菌を運んでくる。誰も注目していなかった彼の研究分野は不人気であったが、猫のもらたしら粘菌を分析した研究成果が、また日の目を浴びる。彼はもともと日のあたる運命であった。
・彼への注目が集まる。世間の評価は、また大学としても見過ごすわけにはいかない、彼への幸せなパスが開け始める。
・しかし、記者の一人が深堀取材をして気が付く。5年前に世間をねつ造で賑わしたあの助手だと。
・世間は一気に、彼を非難する。
・大学としても、彼の処遇を優遇するどころか、逆に学校においておけない、という流れに。
・そこに学生たちの署名。彼は日の当たらない地道に打ち込む学者であったが、彼の人となりを知る学生たちはこの男が良い人であり、大学を追われるのは反対だと、いうキャンペーンを展開する。
・しかし、それだけは、あらがえない。
・そこで、黄色のカードとして「他の人」を登場。こんな折に、やってくる一人の男性。
彼のかつての研究室の後輩。苦しい時代に一緒に過ごし、当時の彼が目を覚ますきっかけとなる言葉をくれたあの後輩が、お話を展開する。
その後輩氏を絵にしてもらいました。穏やかそうな、サブキャラらしい、テイストです。スーツはダブル。
・彼は、当時の研究をつづけた。そして、男がねつ造した多くのデータへの追実験を行っていた。その結果、ねつ造としたデータの多くは、実験から再現ができるデータであることが徐々に明らかに。彼は、当時の学会でさほどの位置ではないにしても、そこそこの研究者として、学会で業績を重ねていた。
・学会は、ねつ造の事件を肯定するほど、積極的なコメントは出していなかったが、世間に対する彼の不祥事は、この後輩の仕事が知られるて、大幅に緩和されていく。
この後輩の気持ち、は、どんなものだろうか。それも、青いカードにしてみました。
初めは、すこし複雑な心理描写を考えてもいたのですが、サブキャラとしてお話をシンプルに展開するために、単純な心理にそぎ落としました。
・この後輩のおかげで、マスコミも急速にセンセーショナルな興味を失っていき、男は大学を追い出されることもなくなる。
・粘菌発見の業績は大きなものであった。その彼に、多額の報酬がもたらされる。
・大学の学長室で積まれたお金を前に、しかし、それを受け取らない。かつてした「奢り高ぶる人間の破滅」のつてを男は踏まない。
・どうしても、という相手に対して、男は、じゃあ、ありがたく一枚だけいただきます。といって、一万円を一枚だけ、引き抜く。これで助手をねぎらいます。と。
・場面が変わって、男はいつもの研究室にいる。ドタバタの末、また、質素で志した道を行くような日々に戻れた。相棒の猫に、今日ぐらいはいいものを食わせてやろう、と、奮発しておいしいさなかを買ってきた。
その時の男の心理状態を、シーンとして、書いてもらいました。(青いカード)
・夕暮れの、寂れた研究等の軒先で、猫と七輪を囲む。
・男の世界は、また安寧を、取り戻す。
(ここで、私は、「署名を集めた学生の一人の女の子も、登場させて、研究室に新しいメンバーが加わった、としたい。その彼女はほのかに男に思いを寄せている。」としたい、と思いましたが、赤井澤さんが「ラブコメ展開より、この一話は、この2人というか、一人と一匹で、終わるほうが、良さそう」という意見。などほど、それもそうですね、ということで、こうなりました。男性の漫画のコアだと、どうしても魅力的な女性のキャラクターがいて、うだつの上がらない主人公になぜか惹かれてほしい、という永遠のマンネリズムもありますが、そうじゃない形を選びました。)
なお、本当ならば、この物語の少し前(T=少し前の過去)も、語り、広げてお話の厚みを作るべきですが今回の場合は、5年前の時点に「目覚めの時」がすでにあってそれの展開ストーリーだったので、ここでは不要なので、省きました。もし、ゼロから、真っ白の世界の上に主人公が降り立って、世界をこうして拡げたならば、過去にその主人公がどんなことを体験して、そこの最初の時間(T=0)に至ったかも、想起しておきたいものです。
以上、こんな感じのことを、前半ワーク中に作り、最後の10分で皆さんに、「即興で、キャラクターフィールド法をやってみたのですが」ということで、ボードとカードを動かしながら、上記のストーリーを話しました。
今回のワークショップは「物語の作り方」(ガルシアマルケス)を念頭にずっと置いて、そして、京都精華大学の夜に、漫画家さそうさんが垣間見せてくれる「創る人の頭の中」を、できるだけ、一般の人にも、体験してもらおうとして、作り上げた「アイデア創出のプロセス」&「アイデア創出の支援ツール」でした。試みが少しでも、参加者のお役にたてていたならば、幸甚です。
資料:
ワークショップの資料PDF
http://ishiirikie.jpn.org/article/42757521.html
ワークショップの前半部分のレポート
http://ishiirikie.jpn.org/article/42781155.html