大きく手堅い事業立ち上げ。ソーシャルキャピタルの活かし方。
(MOTの実践現場にいる研究者としての石井の視点から、あるケースから得られたファインディングを書き留めておきたいと思います。)
私が駐在する企業のあるビルはインキュベータです。ベンチャー企業がたくさんいます。急成長中のあるベンチャーの取締役と昼食を食べたときの話です。
石井「よくそれだけ大きい投資をしましたね。新しい業態をつくろうとしているときに、手堅い小さな規模の拡大再生産の成長モデルのほうがリスクが小さいようにおもいますが、実際には、その辺はいかがですか。」
取締役「それがですね、社長は”大きく手堅い”んですよ。」
私はどういうことだろう、と不思議に思い聴きました。「どういうことです?」
取締役「当社は先に大きな仕事をもらってくるんですよ。で、その仕事をかなえるために、全力でやる。後で振り返ると、われわれがナニナニ業であるという名前がつくことに気がつくんです。」
しばし私は考えました。なるほど。ベンチャーが先に「したいこと・できること」を商品にして、売り先を見つけるのに苦労するケースは多いけれど、彼らは先に「顧客からの仕事」があり、それをするために組織と能力を全力で構築する、わけです。
ここで2つのことに気がつきました。
1)彼らのしたいことがもちろんありますが、その実現の手段は、懐広く捕らえています。
2)はじめに大きな仕事を取ってくる起業家(社長)がいる。実績のない出来立ての会社にその仕事をもらってこれるのはひとえに起業家のもっている個人の実績、人脈、ビジネス能力という目に見えない(会計帳簿にも載らない)資産です。これが、ある意味、この企業の担保。
ソーシャルキャピタルという「関係性という領域に存在する資産」が非常に大きい起業家が、それをどう「仕事やお金」という会計帳簿にのる数字に変換するのかを、実例として見せ付けられたケースです。圧倒的なソーシャルキャピタル(+起業家の個人能力)。
大きく手堅い戦略。というのは、起業家がもつ内外(内:個人能力。外:ソーシャルキャピタル)の大きな資産を、ビジネスに変換していくことと深い関係がある。そう気がつきました。