「雨には雨の楽しみがある」(まだ語ることの出来ない価値観。)
修士2年生の夏、宮古の海岸のキャンプ場の管理人バイトをしたときに
いくつか学んだことがあります。
一つは、そこの総支配人の言葉が意味するものでした。
http://ishiirikie.jpn.org/article/310492.html
もう一つは、お客さん、とてもかっこいいお客さんの言葉です。
学んだというよりも、いまだ解けない「問い」です。
その日は早朝から結構な雨でした。土砂降りに近い時間帯もあり、
キャンプ場の電話には、当日キャンセルの電話が相当数はいっていました。
お客さんがたも楽しみにして休暇を取っていたのに、と残念そうです。
それでもいらっしゃる家族連れのお客様もいらして、そこのお父さんが
”キャンセルしても、することがなにもないので仕方なく
キャンプに来たけど、この雨じゃなにもできそうにないなぁ”
とおっしゃっり、お子さんも残念そうな顔です。
午前10時くらいに、一組のご予約のお客様がお見えになりました。
実は私がずっとそのお客さんが入ってきたときから不思議な感じがありました。
その原因は、後ではっきりしたのですが、
お子さんが、雨なのに残念そうにしていないことでした。
受付をして場内利用の説明をして用具一式をお渡しする間に、
たわいもない雑談をし、ふと、私が言いました。
「しかし、せっかくおいでいただいたのに、すごい雨になってしまいましたね。」と。
そのお父さんは、すごく凛とした顔で私にこういいました。
「雨には雨の楽しみがある」と。
私はしばらく考えました。なんだろう、雨の楽しみとは。
どうしても答えが知りたくなって、私が続けていいました。
「そうですよね。たとえばテントの中でトランプをされてみるもの
オツでいいかもしれませんね。」
自分でも非常にとんちんかんなことを言ったわけですが、
相手に次の言葉を続けてほしいので、無理にでもとっさに
思いつきでいったのでした。
お客さんは
「いやそういうことじゃないさ。」
とおっしゃり、私は口に出さずに、顔では、”それって何ですか。”とたずねていて、その無言の質問に、お客さんは、とても強いまなざしで、”うんうん”、と頷きました。
そして息子さんに振り返り、「さあ、荷物をはこぶぞぉ!」とおっしゃり
雨の中にそのポロシャツの背中が消えていきました。
理由は分かりませんが、『それは自分で見つけなさい』といわれた気がしました。
冷たい意味ではなく、とても暖かいメッセージとして。
雨には雨の楽しみがある。
未だに解けません。私の中にずっと、1998年から解けないでいる問いです。
もう少し解くことが出来なさそうです。
私の娘が小学生くらいになったら、ぜひ土砂降りの日にキャンプ場に行ってみたいとおもっています。そして、テントの中でトランプをしてみて「違うな」という顔をしてみて、そのときには、なにか分かるかもしれない。そんな気がします。
何が分かるのかも分かりません。ただ分かるのは、
私にはまだまだ分からないことがたくさんあるし、
1998年からこれだけの時間がたっても忘れない出来事が
真空地帯としての価値観を形成している、ということです。
まだ語ることの出来ない、価値観。
そんなことをふと冬の雨に思いました。