大学発ベンチャー、6つのスタイル
2004年の4月から、社会人ドクターとして東北大学のMOTコースに在籍し、大学発ベンチャーの創出に関する研究を行ってきました。その研究活動を整理する意味で、ここに一部掲載したいと思います。
大学発ベンチャーというのは、「大学等の研究成果・技術シーズ」を元に「事業化」し社会に大きな価値を創造してゆく存在です。社会発展・経済成長の担い手として重要な役割を持っています。一方で、ベンチャー企業としての性格をもたない起業スタイルも「大学発ベンチャー」に含まれます。
この大学発ベンチャーについて、経済産業省や日本経済新聞社などが、調査を行って資料を整備しています。そのうちのいくつかは一般の研究者でも利用することができ、そうしたものを利用させてもらって研究をしています。この二年間、そうした企業群に関する統計的な分析や企業WEBサイトから情報・訪問調査を通じて大学発ベンチャー企業を観察してきました。
観察された事例を分類・整理すると、以下のような6つのスタイルに分けることができます。
「大学発の起業」
個人事業主やSOHO的な事業形態、あるいはNPOなど。大学の人材・ノウハウに絡んだ小規模事業の創業という特徴があります。経営資源をあまり必要としないコンサルティング事業や小規模受託分析事業などが多く見られます。
「大学発の事業化支援事業」
技術移転機関やインキュベータなど。技術事業化などを支援する公的支援機関的な性格と、大学付属サービスのような形態をもつことが多いです。
「中小企業の社外ベンチャー」
大学のシーズを用いて、既存企業が第二創業的な事業を子会社として進めるケース。既存の母体があり経営資源が獲得しやすい傾向があります。技術シーズに求められる要件が、高い専門性や特許などの権利化された知的財産が十分にある(見込まれる)という傾向が強いようです。
「大企業の産学連携用研究所」
大学がもつ技術を用いて製品開発を行い自社の競争力をつける目的で大企業が産学連携の一スキームとして大学と自社の間に事業体を作るものです。国立大学が法人化したとはいえ民間企業のようなレベルまではなかなかむずかしいものです。そうした中である意味、大学と企業の間の研究開発連携の緩衝材(あるいは、経営資源のプール)的役割を担います。
「ベンチャー企業の産学連携」
独立ベンチャーが創業後に、事業展開を通じて自社製品に求められる付加価値を認識し、その実現を図る目的で大学等と産学連携を行うケース。(経済産業省の定義では「創業後5年以内に産学連携」をした企業を大学発ベンチャーに含めています。)技術シーズに求められる要件は、新しい産業を拓きえる潜在可能性の大きい技術であること、あるいは、科学とビジネスの距離の短いサイエンス型産業であることなどの特徴があります。顧客が大学等であるケースもあります。この場合は、ベンチャー企業にとっての大学の位置づけは顧客参加型(共創的)製品開発としての側面も持ちます。
「研究成果の事業化(コアの大学発ベンチャー)」
主に大学(教授・研究者・院生・学生)が主導権をもって研究室の研究成果を事業化していくケースです。当初は大学人が創業社長をつとめていたのですが、最近ではビジネス経験のある産業人を社長にして、大学人はCTOになるケースが主流になりつつあります。(中には社長業と教授職の兼務ができるパワフルな大学人もいますのでこの限りではありませんが。)
こうした分類は”これが絶対”というものはありませんが、ベンチャーの成長の軌道に大きな影響をもたらす特徴の一つが、この「6つのスタイル」になるだろう、と見ています。
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(図:事業内容のベンチャー性と収益化までの期間で6スタイルをポジショニング)