ブレストの実際(4)なぜ批判禁止なのか。
ブレストのルールは4つあります。本格的なブレストをするとなぜルールがそうなっているのかが、分かる瞬間があります。そのほかの文献で言及されていることも含めて、4回シリーズでご紹介しています。第4回目。
批判禁止
ブレストのルール、これまでの3つとは性格の異なるものです。他の3つのルールが十分に機能するための土台を整えるものです。比喩でいうと、他の3つがロケットの第一エンジン、第二エンジン、第三エンジン、だとしたら、この批判禁止は、ロケット発射基地であり、エンジン燃料に不純物が混ざらないにする制御機器です。この批判禁止がきちんと機能していないと、まず、ロケットは飛び立ちません。第一エンジンが始動してもそこまで。第二エンジンの荒唐無稽は、ほとんど動かないでしょう。第三も。

また、チームが飛び上がったあとに、時々、エンジン燃料に不純物が入りそうになります。つまり、「おい、それって、むりじゃないか」とか「そんなの誰も欲しくない」という不純物が。その不純物が混じり始めると、第一・第二・第三エンジンはとたんに推進力をなくします。批判されたら誰だって、荒唐無稽なアイデアを出したりできません。ましてやほかの人の荒唐無稽のアイデアを利用するなんて。なので、批判禁止という制御装置がキチンと常に作用している必要があります。
発散フェーズでは、発散することに絞る。
批判、というものが、決して無価値であるわけでも、悪いことでもありません。むしろ、批判にさらされて物事は磨かれていきます。創造的な教育であるフィンランドメソッドなどでは、批判の重要性も明確に語れています。批判というのは、収束フェーズの作業。発散フェーズの作業であるブレストでは、発散することに、チームの力を集中させよう。そういうことです。一度に一つずつ。と考えてもらえれば幸い。
批判が好きな人がいます。重要な人材です。常に批判したくてたまらない、批判的な着眼能力が優れているヒトには、物事を見ると、リスクポイントが見えてきます。ブレストなんて効果があるのか?と思っている批判者がチームにいる場合、チームのエンジンが始動せずリーダは苦戦することがあります。そういうときには、試しやすい2つの方法があります。
1 メンバーが批判行為者を指摘するルールを作る。
批判者は批判される状態に陥るのを潜在的に避けます。ガードが硬い。そういう人物は「批判するとチームメンバーから批判されてしまう。」というルールになった場合には、批判作業をしなくなります。発言が減る可能性もありますが、エンジン燃料に不純物が入れば、チームは驚くほど簡単に失速します。民主的で飛ばないロケットよりも、安心してエンジンを回せるようするロケットのほうがいい、そう割り切ります。収束フェーズでは、批判者の能力が必要ですから。たいていの人にとって、批判するのは自然な思考プロセスですから、その意識を抑える訓練を一時間だけして見るつもりでブレストをしてみましょう。
2 批判的な考えが生まれたら、生産的なつぶやきに言い換える。
生産的なつぶやきに言い換える。というのは、批判文章「○○が悪い」を思いついたり、誰かがそう発言してしまったならば「○○を劇的によくするアイデアってなんだろう」とか「もっと○○にするとどうなるだろう」という構造に直してみる、ということです。
例1「それってすごくお金がかかるよ」
⇒『それに似たことを、お金が1/100ですむ方法って何だろう。』
例2「そんなの誰も欲しくない」
⇒『もしごくわずかにそれを欲しい人がいたら、
その人がもっと喜ぶマニアックな仕様ってなんだろう。』
例3「それって確率的に難しいよ」
⇒『10%の確率ならば、その出来事が同時に100個起こせるアイデアって
ないだろうか。それならば、少なくとも10個は成功するし。』
以上、批判禁止を徹底させるのは重要であり、かつ、難しいのですが、上記のような工夫をすることで、かなりの確率でチームは批判禁止の雰囲気を得ることができます。自分が批判者である場合には、あとでその批判有効に使えますから、メモカードに、さらさらとかいて、胸ポケットにしまっておきましょう。人間、アウトプットしないと、次のことが考えにくいものです。ちょこっとしたメモに書いておくことで、すっきりできる特性が人間にはあります。
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またある本では、批判禁止、という部分を「判断を遅らせよ」とも表現しています。(引用:『創造的問題解決-なぜ問題が解決できないのか』)
”禁止!”というルールは扱いにくいものですが、”○○せよ!”というルールは、分かりやすい。判断をしようとしたときには、「判断を遅らせよ」と言い聞かせてみてください。
なお、批判のない状態はアイデアの芽にとっての、地下水脈を守ることともいえます。

アイデアの種は非常に弱い存在です。批判作業を混在させると、地下水脈(潤い、でしょうか。)が途切れ、持っていたはずのアイデアの芽さえひからびていきます。