新しいフレームワークを創り出す手法、ビジネスエスノグラフィー
ビジネス・エスノグラフィー関連の日記が続きます。なぜ「ビジネス」で「エスノグラフィー」(民族誌学)なのか、本質はこの辺になるような気がします。
(来年度のビジネス・エスノグラフィー研修への参加検討をされる方への検討材料になればとおもい、書いてみています。しかし私石井の解釈に基づくものであり、正確な内容の紹介ではない可能性を含みます。あらかじめご了承ください。研修で学んだ知識の発信の仕方として不適切な場合はご指摘ください。すぐに修正いたします)
ビジネスエスノグラフィーの興味深いことの一つに「新しいフレームワークを作り出す」というものがあります。
(1)新しいフレームワークは、どんな良いことをもたらすのか。
(2)そしてその新しいフレームワークはどうやって作りだすのか。
について、理解したベースで書いてみたいと思います。
(1)新しいフレームワークは、どんな良いことをもたらすのか。
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(1)新しいフレームワークは、新しい事業機会を発見させる。
従来の商品企画では、分析にフレームワークを使うときには、それは誰もが認めるよくしらているものを使います。一方、BEでは、ユーザを観察し、行為や潜在ニーズを考える時に、新しいフレークワークを作り、それをもとに、商品企画を提案します。
これには、労力とメリットがあります。
【労力】
分析のフレームワークを、新しいものにすることは、大変です。新しいフレームワークを作ったなら、企画会議などで、「そのフレームワーク、なぜそれが有効なの」にこたえるところが、まず必要になります。ここについては、in vivo(イン・ビーボ)なもの、声や写真やフィールドワークから得られる様々なマナの情報をベースに、強い共感を引き出していく、ということがあります。エスノグラフィー(民族誌学)の手法のメインである「参与観察」などがそれを可能にしています。(もちろん、実際には、ビジネスエスノグラフィーという発展形なので、エスノグラフィーそのものとは純粋には異なります。より実践的にデザインされた手法だとおもいした)
【メリット】
新しいフレームワークは、新しい事業機会を発見させる、という点です。既存のフレームワークでは、見すごされる弱い兆候、取るに足らない事実、となるものの中に、人間の潜在的なニーズが含まれている場合、それは、やっぱり、既存のフレームワークでは、紡ぎだせません。現場に行った人が感じる「なにか」とか「うまくいえないが、こうしたらいいはず」というものは、それでも存在します。
「フレームワーク」は対象を観察する、論じる時にうまくそれの変化具合を読み取れる「物差し」です。社会の様子を観察して、ひとたび出来上がり説明性が高いと多くの人が使います。だからそれを変えて新しいものをだすと、人は最初、信用はしません。しかし、問題は、「社会は常に変化している」という点です。そのフレームワークを作った当時の社会とは、だんだんと変わっていきます。そのフレームワークではだんだんと読み取りにくくなってきた社会の変化。それが大幅にフレームワークと合わない、という事実が突き付けられると、新しいものが出てきます。しかし、弱いシグナル、かすかな事実、の段階では、「なんか実態と違う」という状態を続けます。消費者は、過去の考え方で作られたメーカの製品に、胸やけ気味で「心くすぐられる商品がないな」と感じます。一方で「でも、なんか違うんだよな」を心の奥底、潜在的に感じていたり。これが言葉にできるタイプのものだと、聞き取り調査で反映されることもありますが、そうでないものの場合は、そのままになります。
新しいフレームワークは、そうした「見すごされる弱い兆候、取るに足らない事実、となるものの中に、人間の潜在的なニーズ」を浮き彫りにして、真正面から議論できる「物差し」となります。つまり、新しいフレームワーク作りのメリットは、商品開発のために、潜在的なニーズをきちんと議論できる物差しが手に入り、それは引いては、事業機会の発見になります。
(私見:おもしろいのは、新しいフレームワークは、「概念上の粒度がそろっていない」と眼にうつることです。何か新しい考えを見聞きした時に、粒度がそろっていない情報だ、と感じた時にぐっとこらえて考えてみるべきだと、思うようになりました)
(2)新しいフレームワークはどうやって作りだすのか。
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(2)複数のEU観察事例のファクトを説明できそうなものへと「仮説、チェック、修正」する
対象となるものごとを観察します。それが有益な示唆を示していた時に、保存(あるいは、伝達)できるように、文字を中心に記録します(文字以外には、図、写真、ボイスメモ、入手した現物、など)。1時間以内に、事実を記録する作業をします。裏にある関係性を推測する場合は、(たとえ、どんなに多くのケースでその推察が正しいとしても)それは事実と違う、ということを明確に区別した上で書きとめます。あるいは、より事実に近い、推察にします。アイデアも出れば書きます。
一定の意図のものに観察した、複数の観察事例をそうして書きとめます。そして、それらの観察事例を無理なく説明するフレームワークをつくろうとします。事例が一つくらいだと、既存のフレームワークでも当てはまりがちですが、3事例あると既存の分類概念で、粒度のそろったものを並べ立ても、あまりうまくいきません。弱いシグナル、見過ごされがちな事実を、よりクローズアップして見せるようなものが必要です。いわば、「物差しの細かさを、局地的に細かくする」感じに似ています。
つくっては壊す。
この繰り返しです。どれかのケースで、観察事実をうまく説明できるフレームワークをつくってみたら、別のケースではどうか、とやっていきます。すると、ああここはあわないな。要素間の構造自体、変更がいるな、などのことがわかってきます(私見:何度も作って壊すこの作業は「アブダクティブな推論&チェック」をしているようです)。
こうして、観察事例をうまく説明できるものを作り上げます。この作業が半端であれば、共感をもって事実を説明できないでしょうし、そのフレームワークから発想するアイデアは、非常に危ういでしょう。
以上がここで述べたいことでした。
この手法を商品企画の現場で実践してみたいなぁと思うと同時に、大学院での研究における「研究対象となるものをモデル化する作業」に、すごく重要なヒントを得たともいました。それは、研究ノートに書いてみたいと思います。(翌日の研究ノートへ続く)
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⇒ ビジネス・エスノグラフィー【まとめ】