興味深いマッキンゼーのリスト
世の中には、発想を引き出す優れたフレーズ(発想トリガー)がいくつかあります。
それらは、各専門分野では、発想トリガーという名前は付いていないものの、優れた発想を引き出すリストとして、古くからその存在が知られています。
最近、創造工学の研究中に読んでいて出会った文献に「発想トリガー・リスト」としての効果のあるリストがありました。
「製品開発をめぐる21の質問」(ハーバード・ビジネス・レビュー2008年8月、P59)という以下のリストは、他の発想トリガーとはかなりテイストが異なります。優れた発想トリガーとしての効果をもったリストです。これは、ビジネス・エスノグラフィー(IDEOや博報堂の行う新製品コンセプト創出のやり方)における「エクストリーム・ユーザ」観察によく似たテイストもあり、とても興味深く思っています。以下に引用します。
“De-average”Buyers and Users
平均像と異なる購買者とユーザを特定する
(1)当社の製品を、通常とは異なる方法で
使用または購入しているのは、
どの顧客か。
(2)営業面やサービス面で通常以上の
ケアを要求する顧客はいるか。
(3)受注、追跡サービス、特別仕様など、
サポート・コストが異常に高い、
あるいは低いのは、どのような顧客か。
(4)製品価格から、ハードあるいはソフトの
コストをを25%減らしても、顧客の
大半のニーズを満たすことができるか。
(5)カスタマイズのために、少なくとも
製品コストの50%を負担するのは、
どのような人か。
Explore Unexpected Successes
予想外の成功を見つける
(6)まったく想定していなかった方法で
製品を使用しているのは、
どのような人か。
(7)当社の製品を驚くほど大量に
使用しているのは、どのような人か。
Look Beyond the Boundaries of Our Business
自社ビジネスの境界の外側に注目する
(8)我々とは全く違う理由で、我々と
同じ問題に対処しているのはだれか。
また、どのように取り組んだのか。
(9)自社事業の効率あるいは効果を大幅に
改善した施策のなかで、他業種に
応用できるものは何か。
(10)自社事業の副産物として得られた
顧客情報や製品の使用情報のうち、
他社事業を大幅に改善するヒントと
なりうるものは何か。
Examine Binding Constraints
足かせになっている制約を検証する
(11)当社の製品を購入または使用するに
当たって、最大の障害となっている
ものは何か。
(12)当社の製品に、顧客が場当たり的に
施した改良の例として、
どのようなものが挙げられるか。
(13)最近の顧客のなかで、当社の製品が
最も適していない顧客はだれか。
(14)当社の製品に最も向いていない用途は、
具体的には何か。
(15)業界内で、なるべくサービスを
提供したくないと思われているのは、
どのような顧客か。
また、その理由は何か。
(16)これまで考えもしなかった障害を
解消すれば、大口ユーザーになる可能性が
あるのは、どのような顧客か。
Imagine Perfection
完璧な状態を想像する
(17)購入者や用途、流通チャネルなどについて
完璧な情報を入手していたならば、
我々の仕事のやり方は
どのように変わっていたか。
(18)顧客一人ひとりの要望にもれなく
応じていれば、当社の製品はどのように
変わるか。
Revisit the Premises Underlying
Our Processes and Products
プロセスと製品の前提条件を見直す
(19)当社の製品に搭載されている技術のなかで、
前回の設計変更以来、最も大きく変化を
遂げているのは何か。
(20)当社の生産技術のなかで、前回の
生産システムあるいは物流システムの
変更以来、最も変化を遂げているのは何か。
(21)いちばん急速に変化している顧客ニーズは
何か。また5年後には、そのニーズは
どうなっているだろうか。
この中の「当社の」は、これから参入を狙う企業の場合は「ライバルと目する企業の」と読み替えてみると、フィットするかもしれません。
たとえば、今の社会情勢(エコと産業構造の転換による電気自動車へのシフト傾向)を考えると、これまでにない企業の電気自動車開発が予想されます。特に電機メーカなど。
その時に(15)や(16)は、かなり強力な発想をもたらしてくれるでしょう。ガソリンエンジン車では、乗り越えられなかった苦手マーケットを洗い出すことによって、参入初期の主戦場を見出す、なんてことになるかもしれません。
ITベンチャーや、日用品メーカ、サービス産業的なところにも、たぶん、同じようにこのリストが良い案を引き出してくれる可能性があります。
会議の前に、ちょっとブレストの練習を兼ねて「(14)当社の製品に最も向いていない用途は、具体的には何か。」あたりで、5分程度、発言してもらったら、それだけでも結構なアイデアの材料を生み出す材料が得られるかもしれません。
ちなみに創造工学的な観点からすると、このリストは、発想を引き出すフレーズ集としては、「粒度が大きい」ようです。もう少し分けて、うまく異なるフレーズ40~50個へ分解できる可能性があります。なお、観点領域でみると「五感で感じるものごと」への発想トリガーがみられないので、その点を充足することができると、食品産業や感性価値の割合の高い産業への適用も強化されると予想されます。