『失敗学のすすめ』畑村洋太郎先生。
10月5日。東北大のイノベーションフェアで、畑村洋太郎先生が、失敗学の講演をされました。とてもとても興味深いお話でした。内容の深さも凄いものがありますが、伝え方・話し方にも、意識をもたれているのでしょうか、とても面白く聞かせてもらいました。
以下、トピックスをいくつか。
■失敗体験の必要性
失敗を通じてのみ真の科学的理解が得られる
挑戦する行動
↓
99.7%失敗する(成功は、センミツ)
↓
体感実感(受入の素地)
↓ ← 知識・経験・思考
一般化された体験(体に滲みついた知識・経験)
↓ ← 学習
真の科学的理解(現象の因果関係、減少のモデル化、
条件変化による現象変化、予期せぬ事象への対応)
このお話の中でコメントされたのが、次の話でした。
人は、体験の中から「構成要素」を見出していく。
そしてそれらの関係性に「構造」を見出していく。
それをもとに「確認」し予想通りの現象がえられて
初めて「わかった」となる。
これは真理探究の深いものがありますね。
1、構成要素を見出す
2、要素同士の関係性(構造)を見出す
3、確認し、心理が分かる。
大変深い。
■失敗の顕在化の法則
(ハインリッヒの法則から類推)
1件の重大災害の影には
29件のかすり傷程度の軽災害があり
その影には
300件のけがはないがひやっとした体験、がある。
■失敗原因の分類
(上位概念に上ると一般則に到達する)
0、人類が未だ知らなかったことが出現したことが原因
1、自分が未熟で設計とその組織を知らなかったことが原因
2、自分が設計段階でよく考えなかったことが原因
3、自分の設計段階では知り得なかったことが原因
4、自分の設計組織以外の別組織の判断ミスが原因
設計における失敗の原因
0未知
物理現象発見
異常現象発見
1無知
学識不足
伝承無視
1不注意
設計者
生産組織
1手順の不遵守
連絡不足
設計手順
2誤判断
ポンチ絵段階
計画図段階
仮想演習不足
2調査・検討の不足
規制・特許
使用環境
購入品・製作
3制約条件の変化
使用条件変化
経済環境変化
4企画不良
組織構成
権利取得
4価値観不良
異文化
規範の違い
4組織運営不良
運営の硬直化
運営の緩み
(私見)これはすごいですね。失敗を想定した場合それが何によってもたらされるか、つまり、どういう失敗要素によってそれが導かれるか、を逆たどりする際にこれは貴重な失敗パターンになるでしょう。ある意味、発想のトリガー、となるもの。
■見ない・考えない・歩かない
全ての生産現場で起こっている3ナイ
■現地・現物・現人(げんにん)
3現を通じてのみ実情が分かる
■見せない・喋らない・触らせない
これからの日本の製造業の目指す道
3にかけたキーワードです。今の現場では、見ない歩かない人が多い。そうです。しかし基本は、現地現物そして現人。現場に入れば空気や匂いなど、文字に載らないものがある。そして知識の伝承では完成したものを渡してもだめ。とのこと。見せないし喋らないし触らせない。本人がベテランからむしりとることで始めて成長の糧になる。と。
畑村先生の旗振りして行なわれているプロジェクト、
失敗知識データベース http://shippai.jst.go.jp/
というモノがあるそうです。
失敗を過去の智慧として生かすのかどうか、これからの社会を担う人次第。私たちにその産物の価値化がかかっています。
追記:
私なりの理解を以下に述べます。
【失敗を許さなければ変革はなしえない。】
(挑戦は、99.7%の確率で失敗するもの)
先生いわく、挑戦すれば必ず失敗するものだと。
その確率は99.7%。
これは、開発・事業化の成功確率がセンミツ(1000のトライで3つくらい成功するものだ)の裏返し。
つまり、997/1000は失敗にたどり着く、という数字。
挑戦(新しい試み)無くして発展や科学的理解はありえない。
ならば、そのためには997の失敗を前向きに受け止める、受け入れる素地が本人や周りに必要なのだ。
失敗をしてはならない、とした瞬間から、発展は無くなる。センミツの「3」の成功のみを狙って開発ができるわけはない。失敗が受け入れられない組織では、新しい試みをできるだけルーチンで既知のものに置き換えたがる。組織としての硬直化、老化が始まる。
失敗学とは、その997のうち、300程度を既におこった重大事例からまなぶもの。(と理解した。)
997から、仮に300ひけば、697だ。
つまりセンミツではなく、1000に303成功する計算になる。10回に3回の成功。
失敗学の真髄は、センミツをジュウミツ(という言葉は無いけれど)に高めることにある。と私は講演を聴いて受け止めた。