内容は既知なるも、実施プロセスは非凡
ビジネスエスノグラフィー研修をうけていて、「ああ、ここは非凡だなぁ、なるほど体験してみると確かにこの方法は効果が高い」とおもうことがいくつもありました。特に印象に残るのは「ダウンロード」という作業です。
【エスノグラフィーについて整理】
エスノグラフィー(民族誌学)は、異なる文化などの研究のために、研究者が対象社会に参与しながら観察する(参与観察する)手法をとります(フィールドワーク、ともいいます)。
自然科学では、対象物を観察者がこわさない、影響を与えないようにするのに対し、エスノグラフィーは、その社会の中で一緒に行動をして観察対象社会に自分が参画している点が大きく違います。
注:学生時代に、経営学の講義でならったこと、佐藤郁也先生の本で読んだことの記憶ですので、正しい表現は少し違うかもしれません。
さて、ダウンロードについて、です。参与観察ですが、今回の研修では完全な長期の参与観察をするわけではなく、ユーザ宅への訪問インタビューとユーザの自然な行動に同行させてもらい同行インタビューをする、というものでした。とにかく、同行インタビュー、訪問インタビューをチームで行ったのですが、このあとが、とても印象深い経験でした。
通常営業マンなども顧客訪問をして、設備投資計画やシステム化要件などをヒアリングします。上司と部下で言った場合には、ちょっとしたディスカッションを、客先を出てから喫茶店ですることもあります。しかしそれは本当に「これが正解じゃないか、これがニーズじゃないか」という決め打ちにちかいごく少ない正しそうな発見事項をいいあうだけ、です。しかも、企業秘密が多いので、喫茶店でそれほどしっかり話し合うわけにいかず、話し方も、ある程度丸めたり、隠語を使ったりしないといけません。あるいはその日は解散して、どちらかがレポートを書いて相手がコメントをフィードバックするということをします。しかし、早くても当日の夜、ひどい場合は一週間すぐ経ちます。
さて、印象深いのは、BEの場合は、初めに喫茶店などを、インタビュー先に程近い場所を調べて選んでおきます。一日に複数のインタビューを行う場合も、インタビュー2時間に対し、喫茶店での時間も1.5時間ぐらい取り、さらに移動が可能なだけの工程を組みます(なおインタビュー先のポイントに30分前につくように余裕も採ります)。
インタビュー先をでたら30分以内に喫茶店にはいり、ポストイットをだして「印象に残ったこと」をファクトベースで書いていきます。20分くらい、それぞれコーヒーを飲みながら書き出していき、それから皆で出し合います。順にひとつづつ出していき、関連したカードがあれば、そのカードにつなげる形で出していきます。初心者チームでも、8つくらいの観点がでてきて、それぞれにカードが10~20枚付きます(8つの観点も誰かのカードにつなげる形ででます)。
また、ファクトは黄色、ファインディングスと仮説は赤、アイデアは青、ときめて書き出すことで、ファクトベースの議論を明確にします。色を分けることでファインディングスも出しやすくなります。この時にあまり事実性とはなれた仮説を作ることはしません。ファクトベースに近い仮説(○○な傾向がある)という程度のものにします。アイデアは出してもいいですが数は少なくていいようです。
この時に、1時間以内だと、非常にたくさん、ファクトを書き出すことができる、ということにびっくりしました。だれかが出したファクトのカードに関連する事実を、「これは別に重要じゃない」とおもっていたことでも、思い出せるんですね。たとえば、本がずらりと並んでいたのですが、その本が極めてきれいな状態を保っていたこと。これは特に意識して記憶しようとしたりメモしたりはしていないのですが、誰かが言った言葉に関連する事実として、出すことができます。1時間以内ならば、そういう重要・非重要の事実をざかざかと紙に落としていくことができます。これがダウンロードという作業です。
この作業は書き出す20分をすぎたあと40分から60分くらい行います。カードを出し合うだけじゃなく、そこで話あったり思い出してカードを増やしたりしますから。
最後にカードを3~6枚くらいのグループにして、後で張り出しやすいようにたばべてカバンにしまいます。
遣っていることは、KJ法だったり、ヒアリング行為だったりディスカッションだったりします。しかし、実施のプロセスは非凡です。この作業は、これからきっと、意識的に行うだろうと思います。
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