動くと戦略が変わる。
起業活動を分析したある研究成果によると、創業一年後の事業が当初の予定通りであったと回答した人はわずか1割であったそうです。事前にビジネスプランを十分に検討することは重要であり決して軽視すべきことではないのですが、ビジネスプランがあればそれで成功までの道のりが約束されたわけではありません。実際に現場で動き回ってみて卓上で検討していたことよりもはるかに多くの情報が現場で得られたという起業家のことばもあります。
”進みながら考えること”の重要性がここにあると思います。外からは見えなかったものが見えてきて、それが事業機会であったり、リスクであったりします。それに応じて戦略も逐次修正していく必要があります。大局的な戦略は長期にわたり変わらないとしても、短期的な戦略は、数週間という単位ですら変更を必要とするでしょう。この辺をある種の起業家は『実際に動いてみると、とり得る選択肢が広がる。広がった選択肢を元に戦略を再検討できるようになる。』という意味で『動くと戦略が変わる』と言及されることがあります。なかなかこの辺の感覚は形式知としては語られることが無く経営者以外には共有しづらいもののようです。
こうしたことの典型例としては、ある種の仕事が好きで競争優位と呼べるものが無くても必死にその世界で仕事をしているうちに、経験と実績(評判)が付き始め次第に、開発的・先端的な仕事が業界から集まるようになる、というケースがあります。彼の起業プロセスをビジネスプラン的に評価すると「なぜ実績もない、さしたる競争優位の源となるものもないその事業をやろうとするのか」といった言葉が出てくることになるでしょう。既存のビジネスプランで判断できるものは『成功する確率が高い要件』を兼ね備えているプランであるかどうか、です。(経営学も同じです。成功する可能性の高い、環境との適応パターンを集約したものです)。成功しにくいプランにも、その後大きな発展を見せる事業もあります。表にすると以下のようになります。
成功したプラン 失敗したプラン
成功確率の高い要件を持ったプラン A評価される成功 C評価されたが失敗
成功確率の高い要件の乏しいプラン B評価されにくい成功 D評価通り失敗
(世の中にはCのプランも、Bのプランもあります。)
『動くと戦略が変わる。』この言葉から次のようなことを学びたいと思います。
事前に十分な準備をすることに努め、かつ、それはわずか一割の部分を見ているだけであることを心して、走りながら見えてくるものを常に取り込んでいく姿勢が必要である。