知の旅を乗り切るには、霧でかすんでも読み取れるものが要る。
ビジュアルvsコトバ。
ビジュアル、というのは、絵、図、写真、地図。
コトバ、というのは、文字、フレーズ、文章、箇条書き。
今日は、「知の旅(すなわち、研究とか、クリエイティブな仕事とか、あるいは起業家の事業化プロセスとか)を乗り切るのに、必要なこと」の一つについて。
知の旅には、霧でかすんでも読み取れるような航海図が要る、という話です。
結論からいうと、「厳密に正確であること」は二の次で、「疲れて意識レベルが低いときにも直ぐに思い出せること」がもっとも重要です。
船出。この時には自分やメンバーの目標ははっきり共有しています。心身ともに健康で、気力充実した状態。はじめのゴール設定(航海の目的地)がどういう形で表現されていても、皆はそれを理解し共有。
どんな航海にも、順調なところと、難所といわれるつらく苦しいところがあります。終始順調な航海では、油断、という魔物があらわれたりします。それのほうがむしろ厄介だったり。
さて、難所に差し掛かります。すると、荒れ狂う波にゆすられ、冷たい雨と激しい風にさらされ体は冷えきり、ろくに睡眠も食事も取れない。次第に皆の意識レベルは下がっていきます。そうなると、理解力がおちて、より原始的な行動、つまり防御とか、自身の生命を保つための行動、に特化した思考が頭を支配していきます(参考:脳幹の話)。
その中で、次第に楽なほうへ航路を変えてしまおうとします。もちろん、全滅するくらいならば、それもありです。しかし、それほどでもない場合でも、難所が続く場合は、楽なほうへ、メンバーは航路を変えたくなり始めます。あるいは航海の中止を考えはじめます。
その難所を乗り切ることなしに、目的地にはつかない。大抵はそういう難所です。通らなくてもいい難所はあらかじめ避けていますから。
さて、そのときに、冷たい雨風の中、リーダーはメンバーに声をかけます。「目的地を思い出せ」と。このとき、航海の場合は目的地がシンプルでシンボリックな場所だと、有効です。北緯何度、東経何度、○○島(金塊とお花畑が島には書かれている)。
しかし、「目的地は、とにかく、北へいったところ」というような定まらない(点を打てない)場合は、求心力はたもてません。その目的地がありそうな理由を本一冊分皆が理解していたとしても。寒くて寝ていないときには、人は「脳の活動している部位」がより原始的になり、知的な長い文章を思い出したり、その言葉が持っている意味をイメージしにくくなります。
これは、起業家が猛烈な加速度で組織を引っ張るときにも、プロジェクトチームのリーダがチームを引っ張るときにも同じです。個人の研究者が自分自身を引っ張るときにも同じ。
苦しい局面を乗り切るには、意識レベルが低下しているとき(=つまり意識にカスミがかかって、難しいことはよく考えられないとき)にでも、直ぐ思い出せるような形態で、目標を描いておくことが重要なのです。
つまりビジュアルで、より細部まで示された絵(写真のコラージュ、精緻な完成図、達成された状態が書かれた絵)で、ゴールを描いておくこと。これが苦しい局面でもカスミがかった状態のチームを引っ張る強力なツールです。
なお、文字で10000文字を要するような長い説明は駄目、ということですが、コトバは全く駄目か、といえば、そうではありません。短いフレーズ、とくに、万人の頭に残るフレーズ、というものも、「霞がかった頭でも読み取れるもの」となります。
例えば優れた「経営理念」。特別で崇高な任務を負ったプロジェクトチームの「ミッション」。その研究成果が多くの人を救うことを表現した「研究の使命(意義)」。
その文章は「内容を充分かつ端的に表現し」、かつ、いつでも思い出してもらえるような「語感のよさ(語呂のよさ)」があり、そのフレーズは「つぶやけば、燃えるような情熱を呼び起こす」ものです。
その難しいけれども、その要素を達成したフレーズは、上記の絵とおなじく、難所を乗り切るときの「霞がかかっても読み取れるもの」となります。
古い時代、使命や志に燃える偉人のなかには、それに相当するようなセリフが見られます。まだ、絵や写真が無かった時代に、人を導くツールは、コトバしかなった。その時には、レーザービームのようなコトバ(つまり、そのコトバは、何日たっても、どれだけの人の口を媒介しても、ぼやけない、減衰しない、コトバ。遠くまで伝わる言葉、長くその人の中に残り再生され続ける言葉。)が、偉大な事業をなした人を突き動かしています。
人は、目標を表現する言葉(経営理念、ミッション、研究の使命)を作るときに、次のことをチェックしてみると、いいのかもしれません。
それは、充分に目標を表現しているか
それは、端的に目標を表現しているか
それは、眠くても口をついて出てくるほど、語呂がよいか
それは、つぶやけば、燃えるような情熱を呼び起こすようなものか
起業家やリーダーの仕事の一つに、「未来に明るいものがあると、メンバーに想起させること。」があります。これを、飲み会でノミケーションの形ではかることが日本では多く見られます。しかし、実際は冷たく強い雨と風が吹き付ける時には、のみにケーションの時間すら取れません。
朦朧としていても思い出せる、「絵」かレーザービームのような「コトバ」。これを創ること、心がけてみたいものです。
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追記
ないものは、つくるしかない。サッポロビール
http://www.sapporobeer.jp/naimono/
は、いいですね。
つらいときでも、共感した人のこころにずっとコダマしているのではないでしょか。